大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(ラ)731号 決定 1956年5月12日

抗告人(破産者) 東和紡織株式会社

主文

原判決を取り消す。

本件を浦和地方裁判所に差し戻す。

理由

抗告代理人は主文第一項同旨の決定を求める旨申し立て、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

よつて按ずるに、本件記録並びに取寄にかゝる浦和地方裁判所昭和二九年(フ)第九号破産事件の記録によると、次の事実を認めることができる。すなわち、抗告人東和紡織株式会社は昭和二十九年十月九日株主総会の決議によつて解散し清算手続を開始したものであるが、これより先光永美喜外五名の債権者は抗告人に対し原裁判所に破産の申立をなし、原裁判所は審理の結果右解散後である昭和三十年六月十三日午前十時抗告人を破産者とする旨破産宣告の決定をなし爾後破産手続続行中、抗告人は昭和三十年十月八日原裁判所に本件強制和議提供の申出をなしたところ、原裁判所は抗告人の右強制和議提供の申立を不適法として却下した。そしてその理由とするところは、原決定によれば「およそ法人が破産の宣告をうけた場合において、強制和議の可決があつたときは会社は遅滞なく法人継続の手続をしなければならず、もしこれをしないときは裁判所は強制和議不認可の決定をしなければならないことは破産法第三百十二条第三項によつて明らかであり、一方法人である株式会社が一旦解散して清算手続を開始したときは、もはや法人継続の手続をとることができないこと、これまた商法の規定の解釈上明らかであるから株式会社が解散によつて清算手続開始した以後において破産の宣告をうけたときは、その後たとえ強制和議の可決があつたとしても会社はもはや法人継続の手続をとることができないから強制和議は不認可の決定をうけざるを得ないことになる。従つて清算手続中にある株式会社が破産の宣告をうけた場合においては、右会社は強制和議提供の申立をすることはできないものと解するのが相当である。従つて本件強制和議提供の申立は不適法である。」というのである。よつて株主総会の決議により解散し清算手続中に破産の宣告を受けた株式会社である抗告人の本件強制和議の提供が、果して原決定のいうとおり不適法のものであるか否かについて考えてみる。清算手続中の法人が破産の宣告を受ける場合のあることは破産法第百二十八条の規定により明らかであり、従つてこのような法人について強制和議が債権者集会において可決せられる場合のあることも予想できるところである。しかし法人の強制和議にあつては法人の継続を前提として認可せらるべきもので、もし法人を継続しないとき又は遅滞なくその手続をしないときは裁判所は強制和議不認可の決定をしなければならないことは、破産法第三百十二条第三項の規定するところである。そして法人が既に解散し清算手続が開始された場合は、普通にはもはや法人は不継続の状態にあるものであるから、清算中に破産宣告を受けた法人は強制和議によつて破産を終結させることはできないのであるしかしながら、一旦解散した法人でもこれを継続することのできる場合があるのであつて、例えば合名会社は商法第九十四条第一号の場合において同法第九十五条の規定によつて会社を継続することができるのであり、また株式会社については、解散を命ずる裁判等によつて解散した場合においては、もはや会社を継続することはできないけれども、存立時期の満了その他定款に定めた事由の発生又は株主総会の決議により解散した場合においては、株主総会の特別決議によつて会社を継続することができることは商法第四百六条の規定に徴して明らかである。要するに、法人が解散により清算手続を開始した後破産の宣告を受けたときでも、その法人が法律上継続可能であるならば、その手続を履践しかつ債権者集会で強制和議の可決があれば、強制和議認可の決定をうけることができるものと解するのを相当とする。本件についてみるに、抗告人は清算手続中に破産の宣告を受けた株式会社であつて、その清算手続を開始するに至つたのは株主総会における解散の決議に基くものであること、前認定のとおりであるから、商法第四百六条の規定に従い株主総会の特別決議により会社を継続することができるのである。従つて会社継続の手続を履践し、かつ債権者集会において強利和議の可決があれば、強制和議認可の決定を受けることができる場合もありうるわけであつて、抗告人が清算手続中に破産の宣告を受けた株式会社であるということだけで、強制和議提供の申出をすることをえないと断定することはできない。してみると、株式会社が一旦解散した清算手続を開始したときは、もはや法人継続の手続をとることができないとの見解のもとに、清算手続中にある株式会社が破産の宣告を受けた場合においては右会社は強制和議提供の申立をすることができないとし、抗告人の本件強制和議提供の申立を不適法として直ちに却下した原決定は違法であつて到底取消を免れない。そして本件強制和議の提供については破産法第二百九十五条、第二百九十六条所定の事由の有無を調査し、かかる事由が存在しないとするならば、更にその後の手続を続行させる必要があると認められるので、本件を原審に差し戻すべきものとする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 伊藤顕信)

抗告理由書

一、原決定の理由は

本件強制和議提供の申立の当否について考えるに、本件強制和議提供の申立をした東和紡織株式会社が昭和二十九年十月九日解散によつて清算手続開始し、その後昭和三十年六月十三日午前十時当裁判所に於て破産の宣告を受けた会社であることは、本件記録によつて明らかであるところ、およそ法人が破産の宣告を受けた場合において、強制和議の可決があつたときは会社は遅滞なく法人継続の手続をしなければならず、もしこれをしないときは裁判所は強制和議不認可の決定をしなければならないことは、破産法第三百十二条第三項によつて明らかであり、一方法人である株式会社が一亘解散して清算手続を開始したときはもはや法人継続の手続をとるこがとできないこと、これまた商法の規定の解釈上明らかであるから株式会社が解散によつて清算手続開始した以後において破産の宣告を受けたときは、その後たとえ強制和議の可決があつたとしても会社はもはや法人継続の手続をとることができないから、強制和議は不認可の決定をうけざるを得ないことになる。従つて清算手続中にある株式会社が破産の宣告をうけた場合においては、右会社は強制和議提供の申立をすることができないものと解するのが相当である。従つて本件強制和議提供の申立は不適法であるから却下すべきであるというにある。

二、原決定は「法人が破産をうけた場合において強制和議の可決があつたときは、会社は遅滞なく法人継続の手続をしなければならず、もしこれをしないときは裁判所は強制和議不認可の決定をしなければならないことは破産法第三百十二条第三項によつて明らかであるという。

しかしながら同法第三百十一条第三百十二条は会社継続を条件とした和議条件にのみ適用されるものであり、会社継続を条件としていない強制和議には何等適用のないものである。

往々にして法律家中には和議は会社継続を条件としたもののみが許されるものであり、清算を目的とする和議は許されないものであると考えるものがある。しかしながらこれは甚だしき誤りである。凡そ和議は債権者の譲歩により破産を避け、弾力ある整理方法によつて債権関係の結末を能うる限り円満なものとなし、依つて一般経済の安定を保全することを目的とするものである。

此の目的を達するが為には債務者をして事業を継続させることもあり、更に進んで債務者に再起の機会を与えんとすることもあるが、元来其の主旨は債務者の救済のみを目的とするものではないから和議の成立には必ずしも債務者をして事業を継続せしむることを要するものと解すべきではない。これは強制和議に於ても和議法上の和議に於ても異るところはない。和議に強制和議と和議法上の和議とあるが前者は破産宣告後のものであり、後者は破産宣告前の手続に過ぎない。強制和議と和議法上の和議とがその法の目的を異にするとは到底考えられないものである。(大審院昭和九年七月九日民第一部決定民集一三巻一六号一三一一頁参照同判旨は清算中の会社に和議開始の申立をなし得ることを認めたものである)

故に破産手続によるよりも強制和議による清算が債権者にとつて有利であるならば、清算を目的とする強制和議も当然許されるべきである。(なお清算和議というものが許されることについては学者の教科書中にも清算和議なる言葉が屡々用いられていることによつても明らかである。(斉藤常三郎博士著和議法(新法学全集一第一六四頁小野常教授破産法第二二六頁御参照)

そして会社継続を目的としない強制和議については破産法第三百十一条第三百十二条の適用はなく同法第三百八条によつて和議認否の決定をなすべきものである。同法第三百八条はその規定の文書上個人破産の場合のみを規定しているものとは読めない。しかして強制和議が会社継続を条件とした場合のみ許されるというのであれば同法第三百十一条及び第三百十二条との関係上同法第三百八条は法人には適用の余地がなくなることになる。又同法第三百十一条は「強制和議の可決ありたるときは……法人を継続することを得」と規定している。しかして右の如く「得」と規定していることは会社継続を条件とした強制和議の可決があつたときは会社を継続することができるという意味であり、会社に於て事業継続を目的としない強制和議のあることを前提としているものである。

しかるに原決定が恐らく強制和議は会社継続が要件であるという考えから会社に於て強制和議の可決があつたときは和議条件の如何にかゝわらず遅滞なく法人継続の手続をしなければならないものと解したことは法律の解釈を誤つたものである。

三、また原決定は「一方法人である株式会社が一旦解散して清算手続を開始したときはもはや法人継続の手続をとることができないこと、これまた商法の規定の解釈上明らかである」という。

しかしながら商法上どの規定の「解釈上明らか」なのであるのか。解散した株式会社もその特別決議により会社を継続することを得ることは商法第四百六条の明言するところである。

原審裁判所は右規定の存在を知らぬのであろうか。或は右規定の存在を無視し平然「商法の規定の解釈上明らかである」としたのであろうか。

四、以上何れの理由によるも原決定は法律に違反の決定であり(特に第三は明文に違反したものである)、抗告人の断じて首肯し得ぬものであるから本抗告に及ぶものである。

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